コピーライター
COPYWRITER
日々生活をする中で感じることや
考えることのすべてが、仕事に直結します。
高橋祐司(たかはし・ゆうじ)
Wieden+Kennedy Tokyo
1989 年生まれ。青山学院大学卒業。2012年、面白法人カヤック入社。2019 年、ヤングカンヌライオンズデザイン部門で日本代表。2019 年、TCC 新人賞受賞。2020 年よりWieden+Kennedy Tokyo 所属。
言葉で戦うことだけがコピーライターの仕事ではない
日本最大のコピーライター、CM プランナーの団体である東京コピーライターズクラブ(以下TCC)が主催するTCC 賞。その新人賞を受賞することは、コピーライターを目指す人の登竜門だ。毎年、厳しい審査が行われる同賞を、2019
年に受賞したのがWieden + Kennedy Tokyo(ワイデン+ケネディ トウキョウ 以下、W+K Tokyo)でコピーライターを務める高橋祐司さんだ。
高橋さんは大学卒業後に面白法人カヤックに入社。そこで手がけた仕事で、TCC 新人賞を受賞した。また同年には世界最大の広告賞であるカンヌライオンズにおいて、30
歳以下の若手クリエイターを対象とした「ヤングライオンズコンペティション」のデザイン部門に日本代表として参加。こうしたキャリアを積み、2020 年に縁があって、W+K Tokyo
に入社した。同社はグローバルに展開するクリエイティブエージェンシーの先駆け的な存在で、日本ではナイキやIKEA、アウディなどのキャンペーンで知られる。「昔からかっこいいクリエイティブをつくるエージェンシーとして知られていたので、学生時代から憧れていた会社でした」。
そんな高橋さんが広告業界に進もうと思ったきっかけは、大学近くの書店で偶然に手に取った本『広告クリエイターの素』。その本でコピーライターという職業の存在を知ったという。“
言葉を武器にできたら、デザイナーじゃなくてもクリエイティブな仕事ができる”。そのとき、この仕事は自分に向いているかも!と無邪気に思ってしまったんです」。
前職では、SNS やWeb のプロモーション、動画の制作、さらには企業のブランディングまで、多様な仕事を手がけた。TCC
新人賞を受賞したリクルートコミュニケーションズ「タウンワークアプリ」の動画コンテンツでは、バイトをしたことがある人なら思わず共感してしまう、そしてバイトをしたことがない人もきっとバイトをしてみたくなるストーリーが展開される。企画では、そのリアリティを再現することに注力。自分の実体験をもとにセリフを考え、撮影現場でどんどん話しながら足していった。そんな「バイトあるある」で語られる言葉に、映像を見た多くの人が共感した。
こうしたさまざまな仕事を手がけてきた高橋さんが考える「コピーライターの仕事」について聞くと、「クライアント企業やブランド、いろいろな人やモノ、コトの伝えるメッセージをクリアにする仕事だと思います」という。「それはもちろん言葉でもいいし、アイデアでもいい。どんな方法でもいいと思うんです。コピーライターというと、とかく言葉が武器と思いがちですが、必ずしもそれだけで勝負する必要はないと思います。
高橋さんが最近W+K Tokyo で手がけた仕事に、アジアで活躍するシンガーソングライター リア・ドウのミュージックビデオ(MV)「ORANGE」がある。このMV
では子どもたちが遊ぶ段ボールでつくられた潜水艦をはじめ、観る人がどこか懐かしい気持ちにさせられるシーンが次々と展開される。この企画で、高橋さんは「懐かしくあたたかい、忘れられない記憶や景色」というテーマを、どのようにストーリーにするかに苦心したという。
この仕事のように、近年コピーライターの仕事は「広告のコピーを書く」ということにとどまらなくなっている。CM やMV
など映像の企画はもちろん、商品やブランドに名前を付けるネーミング、企業のスローガンやコーポレートアイデンティティの開発、ときにはSNS
で発信する言葉を考えることも。また、企業の新規事業や新商品などのコンセプトワーク、社員の意識をひとつにするためのワークショップなどにも、コピーライターがかかわるケースが増えている。そのため、コピーライターとして仕事をしても「広告」という形にならないこともあり、ときにはコピー、あるいは言葉そのものが世の中に出ないこともあるのだ。「言葉を考えることが全くない仕事も、コピーライターの仕事として存在します。コピーライターだから言葉ということに執着せず、言葉以外のあらゆることに興味を持つことが大事だと僕は思っています」。
心がけているのは、人間に対してポジティブでいること
どんな仕事でも「世代の違う人や自分とはかけ離れた環境にいる人など、そういう人たちに届いたな、と思える仕事が理想」だと感じている高橋さん。仕事をはじめて8
年目を迎え、いまコピーライターとして、どんなところに面白さを感じるのかを聞いてみると、「企業や商品などのよいところを発見して、それを伝える仕事であること」だという。「そして、この仕事には絶対に正解がないんです。だから、日々生活をする中で感じることや考えることのすべてが、仕事に直結します。それは逃げられないということでもあるのですが(笑)」。
コピーライターという仕事に就くために必要と思うスキルについて、高橋さんは次の3つを挙げてくれた。
・自分の感じたこと、考えたことに向き合うこと
・ 人の感じていること、考えていることに関心を持つこと
・否定するより、肯定することが好きであること
「職種によって全く異なるのでわかりませんが、広告業界で働きたいのであれば、世の中に対して、人間に対してポジティブでいることだと思います。人が嫌いだと成立しない気がします」。
言葉を書く技術を高める、本や新聞を読む、さらにはボキャブラリーを増やすなど、言葉にまつわる力を磨くことは、コピーライターを目指す人にとって大事なこと。それは社会人になる前に、誰もが取り組むことができるだろう。でも、高橋さんは学生時代にできることとして、「よくわからなくても、いろいろなものを見たり聞いたりすること」「自分の思ったこと、考えたことを言葉にしてみたり、表現してみること」を勧めてくれた。「例えば自分が観てよかった映画や漫画を友だちにお勧めするとき、ただ『この映画面白かった』じゃなくて、『何がどう良かったのか』を話してみる。広告は制約の中で進める仕事なので、ネタばれせずに、その魅力を伝えることは、考え方の訓練になるかもしれません」。
書店で出会った本がきっかけでコピーライターを目指した高橋さんだが、高校時代のとある経験もいまにつながるところがある。「高校の文化祭で、やりたかった企画があったのですが、学校からNG
が出てしまいました。でも、どうしてもやりたかったので、再度さらに上の先生に直談判してOK
をもらい、実現したことがあります。そのときに、ちゃんと熱意を持って良さを伝えれば、相手に納得してもらえる、それで企画が実現できることを知りました。仕事をしていると、そのときと同じような状況になることがあるんです。もちろん熱意を持って取り組むのですが、正直なところ、まだ得意とは言えず、という状況ですね」。
先に書いたようにコピーライターが手がける領域が拡がり、組織の再編などゆっくりと変わりつつある広告界。その中で、これから高橋さんはどんなところを目指そうとしているのか。
「領域が広がったことで広告界のくくり自体があいまいというか、無いに等しいという感覚です。だから、自分がいることで意味が出そうなところに、自由に繰り出していけたら楽しそうだなと思っています。そして、コピーライターとしては、ずーっと誰かの心に残るような、人生の指針となるような、何かが作れたら、と思っています。もしかすると、それは言葉じゃないかもしれないけれど、それもまたコピーライターの仕事だと思っています」。