あなたの抱いているコピーライターのイメージとは、どんな風でしょうか? ある商品の広告を依頼された彼は、うーんと少し考えた後、キラリと眼の奥を光らせる。おもむろに1枚の紙を取り出し、サラサラっとキャッチフレーズを書いてみせる。それをクライアントに渡して、はい、数十万円。そんな風に思っているのではないでしょうか。
コピーとは、広告のすべて
広告の世界で言うコピーとは、一般に広告文字全般のことを言います。そこにはテレビやラジオなどの電波媒体のメッセージも含まれます。
かつて一世を風靡した、糸井重里さんの「おいしい生活。」(西武百貨店)、仲畑貴志さんの「おしりだって洗ってほしい。」(TOTO)、眞木準さんの「でっかいどお。北海道」(全日空)などは、あまりにも有名です。そんな広告コピーを書いているのが、コピーライターと呼ばれる人たちです。
始まりはオリエンテーション
コピーライターの仕事は、クライアントからのオリエンテーションから始まります。
ここで、クライアントから広告したい商品とその商品が抱える課題、広告の目的、予算などについて、クリエイティブディレクター(CD)やアートディレクター(AD)などと一緒に説明を受けます。
「何を言うか」を決めるコンセプトづくり
オリエンテーションを受けたコピーライターは、広告のコンセプトを明確にすることに取りかかります。市場を見極め、商品を的確に分析し、ターゲットを想定して、訴求ポイントを絞り込む。商品に関する膨大な資料を読み込み、時にはクライアントへの取材や販売されている店頭に出かけて、その特徴をよく理解し、商品を売るために言わなければならないことは何か、競合商品に立ち向かうための優位性や相違点はどこにあるのかを追求します。そうして営業やCD、ADたちとの打ち合わせを重ね、コンセプト、つまり「広告で言うべきこと」を決めます。
「どう言うか」を絞り出すコピー開発
コンセプトが決まったら、今度は消費者に「商品を買う」などの行動を起こさせるように、覚えやすく、説得力のある言い方を考えます。なるべく新鮮でオリジナリティに富み、創造力豊かに表現する方法を考えます。一見、思いつきやひらめき、「あ!降りてきた!」のようにコピーが生まれるように思えるかもしれませんが、地道な調査や論理の組み立てから生まれています。また、1本のキャッチフレーズができあがるまでには、実に数十本から数百本のコピーが書かれ、その中の大多数は採用されず、何回も書き直し、真芯を捉えた1本が世に出るのです。
キャッチフレーズ以外のさまざまな仕事
しかも、コピーライターの仕事はキャッチフレーズを書いて終わりになるわけではありません。コピーには、キャッチフレーズのほかに、サブキャッチ、タグライン、ボディコピーやステートメント、見出しやスペック、クレジットなどのライティングも含まれます。ネーミングやパッケージの裏書き、テレビCMのナレーション、コマーシャルソングの歌詞、企業スローガン、Twitter等SNSの投稿テキストまで考えることもあります。プレゼンテーションの企画書を書くのも、プレゼンの現場でクライアントに企画を説明するのもコピーライター。決してライティングだけが仕事ではありません。
チラシからオーディション審査まで
コピーライターの仕事はまだまだあります。パンフレットやカタログ、会社案内や企業PR誌を制作し、チラシやDMのコピーを書く。広告に起用するタレントのオーディションに立ち会い、審査員の一人になる。ロケハン(ロケの下見)や撮影ロケに立ち会う。これらの全部がコピーライターの仕事なのです。広告企画のスタート段階から広告を世に送り出すまでの間、コピーライターは関わり続け、広告に関する文字のすべてに責任を持ちます。そうした仕事を何本も同時に担当します。
同じコピーライターでも異なる仕事内容
こうした仕事内容は、所属する会社や規模によって、大幅に変わってきます。広告会社のコピーライターの場合、広告全体のコンセプトづくりの段階から参加したり、テレビCMの企画を考えるなど、広告制作全体やディレクションに広く関わることが多いですが、一方で、制作プロダクション所属やフリーランスの場合は、コピー自体の能力を問われる専門職的な色合いが濃いことが多いです。
1人ではできない仕事
広告制作には、さまざまな職種の人が関わります。グラフィックの場合はビジュアルとコピーが必要ですので、少なくともデザイナーとコピーライターの2人で作業を進めることになります。テレビCMやラジオCMになると、クリエイティブディレクター、プランナー、ディレクターなど関わる人数は格段に増えます。クライアントの意向を汲み、スタッフと話し合いながら、一つの広告を作り上げていくので、コピーライターはコミュニケーションのプロフェッショナルでもあります。
小説や詩との違い
コピーは小説や詩などの文学とは似て非なるものです。文学は、それを「読もう」と思う読者に読まれます。コピーは、それを読む気のない人に話しかけ、振り返らせなければなりません。文学は、時代を経ても古典として存在し続けますが、コピーは時代や市場、商品や企業の状況を反映して作られるため、「いま」の時代にしか生きられない。文学は、表現者である作者の思いのままに内容が綴られますが、コピーは前提としてはクライアントワークです。クライアントが感じている課題を理解し、それを言葉の力で解決に向かわせないといけないという制約の中において、クリエイターの力が必要とされるのです。これが広告クリエイティブは、アーティストによる作品ではない、と言われる所以です。
表舞台で見かける一見華やかな姿の裏側で、コピーライターは地道にコツコツと仕事をしているのです。そんな彼らが一番嬉しいのは、自分がコピーを書いた商品が売れること。なぜならそれは、自分のコピーが受け手の心に響いたと、確実に実感できる瞬間に他ならないからです。
ジャンルを超える活躍の場
コピーライターの仕事は、もはや広告づくりだけにとどまらなくなっています。歌の作詞、映画やドラマの脚本、小説、絵本など、書くという技術を応用した表現から、社内活性化のコミュニケ―ション戦略の立案、事業戦略の策定、企業のコンサルテーション、経営理念の言語化など、ビジネスの中枢にまで活躍の場が広がっています。コピーライターがこれまで生業としてきた「物事を整理し、言葉でまとめ上げ、それをもって誰かに何かを伝える」という技術は、私達の日常まで含めたあらゆるコミュニケーションの場で応用が利く考え方なのです。