広告業界の先輩が語る仕事内容 クリエイティブディレクター①

クリエイティブディレクター
CREATIVE DIRECTOR


久間木達朗

コンテンツがあふれた時代。
広告ならではの価値を
大事にしていく。

久間木達朗(くまき・たつろう)
I&S BBDO
ACD(アソシエイトクリエイティブディレクター)


2012年入社。プランナーを経て現職。CMを中心にWebなどの領域も手掛ける。UCC、TBS、広島県観光プロモーション、花王、MARS、などを担当。
受賞暦にACC賞、Spikes Asia、Asian MarketingEffectiveness & Strategy Conference & Awards、APPIES、AD STARS など。

アイデアをまとめる「矢印をつくる」仕事が楽しい

僕はもともと広告の企画・立案を行うプランナーでした。クリエイティブディレクターも企画を考えますが、どちらかというと企画全体のまとめ役というポジションです。責任者としてクライアントの意向を聞き、アートディレクター、プランナー、コピーライターそれぞれが出してくるアイデアをまとめて一つのコンセプトをつくります。そこから制作物に落とし込むときも、チームのアイデアをまとめ、デザインに方向性をつけていくのがクリエイティブディレクターの役割です。

僕らの仕事は、なによりもまずコンセプトを決めることから始まります。コンセプトとは、その企画を貫く骨格となるものです。クライアントがイメージしやすく、納得できるものであることが大前提ですが、クリエイティブチーム一人ひとりが進むべき方向を明確に把握でき、かつ彼らの創造力を刺激するもの。そして、広告の受け手であるユーザーが引きつけられ、心や行動に変化をもたらすものであることが重要です。

コンセプトを決めるためには、徹底的に商品と向き合うほかありません。その商品が持っている良いところ、改善すべきところをリサーチします。企業広告なら、その会社の人ととことん話して、なにが課題なのか、今後どんなふうになりたいのか、その思いに真剣に耳を傾けます。そして、来る日も来る日も考えて、「ここを伝えればこの商品は売れる」や「この会社が目指す方向に」といったものを発掘します。

プランナーの仕事をしていたころの僕は、自分が考えた企画を実現したい欲求が強かった。でもクリエイティブディレクターとして企画を俯瞰して見る立場になって変わりました。自分自身も企画を出しますが、それよりも「矢印をつくる」ことが楽しい。クライアントの意見を聞いたり、チームや制作会社のクリエイティブのプロから出てくる多様なアイデアを、一つのコンセプトに凝縮していく作業にとてもやりがいを感じています。最近は施策によってデジタルのスタッフなど、新しい顔ぶれが加わることもありますが、それでも最初に決めたコンセプトが崩れることなく広告がつくられていく様は圧巻だと思うのです。自分の企画を通したかったプランナー時代を経て、いまはいろいろな意見を取り入れることで企画が変化し、自分一人ではたどり着けなかった表現に行くことができる、クリエイティブディレクターの仕事を楽しいと感じています。

 
 

強いコンセプトを発掘できたUCC のリブランディング広告

2021 年に手掛けたUCC上島珈琲の新しいブランディング広告は、まさに強い矢印をつくることができた仕事だと思います。UCC は日本ではとてもなじみのあるブランドですが、老舗ゆえの悩みを抱えていました。それは他社のブランドに比べて「古い」や「昔」というイメージが強く、その長い歴史のなかで培われた優れた技術が世の中に伝わっていないということ。長年、リブランディングをして新しい見え方を打ち出したいという思いがありました。

そのプロジェクトを担当することになったのがI&S BBDO です。全体を統括するエグゼクティブクリエイティブディレクター(ECD)の下、アソシエイトクリエイティブディレクター(ACD)の僕とアートディレクターというチーム編成。重要なコンセプト設定は、誰か1 人が担当するというより、3人集まって徹底的に話し合うスタイルをとりました。

UCC の方にたくさん話を聞いたり、神戸の工場で実際のコーヒーづくりの現場を見たり、会社の歴史を丁寧にひも解く作業を続けるなか、あるとき「これはクリエイションだ」という声がチームのなかから上がりました。UCC には、農場から優れたコーヒーの木を持続的に育てることができる仕組みがあります。そしてオリジナルの味が生み出される裏には、焙煎やブレンドのスペシャリストたちの存在があります。社内にはコーヒーにまつわる膨大なデータが蓄積されています。世界で初めてミルク入り缶コーヒーをつくった歴史が物語るのは、果敢に創造する社風です。UCCの真の姿は、メーカーという言葉ではとても表現しきれない、まさしく『COFFEE CREATION COMPANY』だと。それが指針となって明確に示されたとき、クリエイティブは一気に進んでいきました。

クリエイティブで僕が担当したのは、主にテレビやWeb のCM、PR発表会などの関連動画で、ブランドアンバサダーの星野源さんが、UCCの取り組みや技術など、これまで知られてこなかったクリエイションな価値を紹介するという内容です。消費者の頭の中には、長年の記憶の蓄積から「コーヒーのCMらしさ」のようなイメージが出来上がっています。そういったシズル感や癒やしを残しながら、「COFFEE CREATION」という新しいUCCのあり方がしっかり伝わる、これまでにないCMをつくることができたと思います。

 
 

コンテンツだらけの世の中で広告はどう存在していくか

いまは誰でもつくりたいものをつくり、自分で発信できる時代です。世の中に面白いコンテンツがどんどん増えていくなか、広告がそれらとどう対抗すればいいのだろう、と考えることがあります。若い人にとっては、見たいコンテンツの邪魔をする、むしろうっとうしい存在になっているのではないか、とさえ感じます。

でも広告には、価値観を変えて社会をより良い方向に導く力があると思っています。例えば、TBS テレビの『日本沈没-希望のひと-』は、環境破壊が引き起こす日本沈没に希望を捨てず立ち向かっていく人々の姿を描いたドラマ。このドラマのプロモーションのため、徳島県美波町の皆さんや現代芸術家の淀川テクニックさんと、アート作品『ReHOPE POSTER』を制作しました。拾い集めた海のゴミを材料に使い、日本列島を立体的に描いたものです。

美波町は、もし南海トラフ地震が起きたら99%の建物が浸水するといわれている町。しかし、震災前過疎という課題や災害リスクに直面しながらも、希望を捨てずに町づくりや防災に取り組んでいます。そんな町の人たちと一緒にゴミを再び価値あるものへと再生させる取り組みを通じて、ドラマの本質を伝えようという意図がありました。このアート作品やメイキングムービーを見た人は、ドラマに興味を持っただけでなく、ほんのわずかでも環境問題を考える機会になったはず。それだけではありません。美波町の人たちは、町が抱える課題や解決に向けた努力が広く知られることをずっと願ってきました。こんなふうに隠れた問題を顕在化させ、世の中が関心を持つきっかけをつくるというのは、他のコンテンツにはない、広告ならではの価値だと思うのです。

2021年のBOVA(月刊『ブレーン』が実施するオンライン動画コンテスト)で、僕たちのチームは『広告の話』という作品で協賛企業賞を頂きました。お題は「学生に『広告の仕事って面白そう!』と思ってもらえる動画」。これに対し、広告だらけの渋谷を舞台に、さまざまな広告たちが「広告は発見」、「広告は応援」、「広告はエンタメ」と自らの存在価値を語るというストーリーをつくりました。この作品を出品したのは、広告や、それを生み出す広告クリエイターの仕事の価値を、若い世代に知ってほしいと思ったからです。

世の中が変わり、人々の価値観が変わり、企業の課題が変わり、メディアも変わる。コンテンツはあふれるばかり。そのようななかで広告が存在価値を追求し続けることは簡単ではありません。それでも僕は、広告を取り巻く環境の変化が楽しみです。自分がまったく予想できないものと向き合ったとき、どんなアイデアが湧き出てくるか。すごくワクワクしています。この先も、社会のなかで広告が必要とされ続けるために、僕は広告制作を通じて、その存在価値を考え生み出すことに挑戦していきたいと思っています。

 
 

※本インタビューは「広告界就職ガイド2023」に掲載しているものです。
※情報は取材時のものです。
※広告界を目指す学生の方は「広告界就職ガイド」を一度、手に取ってみてください。



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