広告業界の先輩が語る仕事内容 CMプランナー①

CM プランナー
CM PLANNER


室屋慶輔

人の心の機微を感知できる人は、

広告の仕事に向いていると思う。

室屋慶輔(むろや・けいすけ)
東急エージェンシー
クリエイティブ局


2010年入社。営業局を経て、クリエイティブ局へ。東京コピーライターズクラブ会員、日本デザイナー学院講師。ACC シルバー、TCC 新人賞、TCC ファイナリスト、JAA 賞グランプリ、広告電通賞ゴールド、ギャラクシー賞、日経広告賞など受賞。

CM プランナーの仕事は観る人の心にスイッチを入れること

東急エージェンシー クリエイティブ局に所属する室屋慶輔さんは、入社10年目を迎えた。「元々コピーライターには憧れていました。とある講演で広告会社のマーケティングの方が語られていた『広告会社の打ち合わせは持ち寄ったA・B・C案の中での多数決ではなく、どれにも似ていないD案が触発されて出てきて“それだ!”とみんながなるのが醍醐味』という話に感化されて。そんな瞬間を何度も経験できるのはいいなと思い、本格的に業界を志望するようになりました」。

就職活動で総合広告会社に焦点を絞った室屋さん。その中で、グループ内にあらゆる業態があり、生活者に対する知見やノウハウが豊富な東急エージェンシーに出会い「そのフィールドでいろいろな戦略や企画を試せるのであれば、面白そう」と考え、入社した。入社当時は営業だったが、その後クリエイティブ局へ。現在は、CMプランナー、コピーライター、そしてクリエイティブディレクターとして活躍している。

ところで、読者の皆さんは「CMプランナー」という職種が、日本にしか存在しないことをご存じだろうか。海外では、主にコピーライターとアートディレクターが中心になって、映像の企画も考える。では、日本ならではの「CMプランナー」の仕事とは、どんなものなのだろうか。「企画。アイデアを発見する仕事です」と、室屋さん。「映像が主戦場です。時間軸を持つ最高のブランド装置を使って“Aという現状を、これでBにしよう”と企み、実際に解決していきます。短尺でも、長尺でも。マーケティングの結論を、ただ説明するだけにならないように。観終わった後から何かがはじまる感じ、15秒の後、16秒目に観る人の心にスイッチが入るように仕立てます」。室屋さんが解説してくれたように、CMプランナーとはただ「面白い映像や美しい映像をつくる人」ではなく、企業やブランドの課題を解決したり、商品を購入するきっかけをもたらす映像を企画、実現する人なのだ。

 
 

人間の業やおかしみを描く

さまざまなCMを企画してきた室屋さんは、この仕事のどんなところに面白さを感じているのだろうか。「人間の業や“おかしみ” みたいなものが描けるところです。“人間ってこんな生き物だよね” と提示したときに、それが観ている人たちの根っこにあるものならば、表現は制作者に委ねられている、そんな寛容さが好きです。人間には愚かな部分があっていいなあと思っているので」。

室屋さんの仕事のひとつが、SOMPOホールディングスの企業広告だ。動画サイトで4000万回以上再生されて世界中で話題となった認知症の父と子の実際の映像を使っている。CMの最後に出てくる「認知症になったら終わり。そんな偏見こそ、終わりにしたい。」というコピーが、とても印象に残る。この企画において、室屋さんは「“事実” こそが、認知症に対する偏見を打ち破る唯一の鉱脈だと考え、ドラマタイズすることをやめた」という。「多くの人が抱く無自覚なイメージや思い込みに“待った” をかけ、認知症には希望もあるということを伝えるために。認知症の父を持つ息子がYouTubeにアップした、ノンフィクション映像を使用しました」。このCMは高い評価を受け「広告電通賞」金賞、ACC賞シルバーなど、多くの広告賞を受賞した。

このCMで室屋さんは企画とコピーを手がけている。広告界にはCMプランナーとコピーライターを兼任している人も多い。2つの職種で仕事をすることについて「映像とはいえ企画である以上、言葉で定義できたりするので、自分の中のコピーライターとCMプランナーが別人格でせめぎ合う、みたいな面白い感覚があります」と話す。

求められるのは、相手への想像力・謙虚さ・繊細さ

CMプランナーと言っても、いろいろなタイプがいる。CMは広告主の課題解決のために企画するものだが、CMプランナー自身の社会の見方、人間に対する接し方、感情の持ち方、企画の立て方などが、クリエイティブに表れるといっても過言ではないだろう。室屋さんも広告界の先輩プランナーたちの仕事に憧れを抱いたという。「例えば、TUGBOAT 麻生哲朗さんが企画した日本自動車振興会(KEIRIN)のCMは、一番の目指し方、散り方にそれぞれの価値基準があることを描き、人生に「近い」とは言わずに鋭くメッセージを伝えています。ワンスカイ福里真一さんが企画したサントリーBOSS『贅沢微糖』のCMでは、“いい人”ががんばっているけれど報われないシーンが描かれますが、最後に彼のような人こそ贅沢をして“いい人だ” というメッセージに落としこまれています。これ以外にも憧れの企画はあるのですが、どれも圧倒的な企画力で、企業やブランドのメッセージに落とし込まれているところに憧れます」。

では、映像を中心とするCM プランナーにとって必要なスキルとはどのようなものなのか。室屋さんは次の3つを挙げてくれた。

・正確無比な「課題設定力」
・企画の鉱脈場所を狭めていく「捨てる力」
・書いた字コンテや絵コンテ、プロットを見ただけで、骨格や筋自体が面白い、新しいと感じさせる「企画力」

さらに、広告界で働くために必要なスキルを聞いてみると「相手への想像力。謙虚さ。繊細さ」という3つを挙げてくれた。「人の心の機微を感知できる人は、広告の仕事に向いていると思うし、そういう人と一緒に仕事がしたいです」。

ちなみに広告界を目指した室屋さん自身の学生時代の経験で、いまの仕事に活かされていると感じているのは「みんなが興味ないものに、どうやって興味を持ってもらえばいいんだろうと試行錯誤した経験」だという。「実はそればかりを繰り返しているのが広告業。そのため、自分の妄想したストーリーがその通りにいっても、あるいは裏切られても面白いという醍醐味に引っ張られて、この仕事に就いた気がします」と振り返る。もともと「何かを“企む“ ことが苦ではなかった」という。「制約から突破口につなげることに、面白みを感じるタイプですね。それから、表現個性についてよく言われるのは“悲哀や皮肉を描くのが得意だよね” と。性格が疑われるかもしれないですね(笑)。凝り性で好きなことをとことん掘りまくる癖があるのも、もしかしたら広告クリエイティブには向いていたのかもしれません」。

広告の仕事を通して人間のよいところを刺激したい

かつてのようにCMはテレビだけではなく、YouTubeで見ることはもちろん、SNS上で偶然出会う機会も増えている。CMプランナーとしては映像としてのクオリティを上げることはもちろん、メディアをどう使うかということも考えていかなくてはいけない時代になっているのだ。「デジタルの効率主義が進みすぎると、接触の効果効率を求めて“最適化” が目的になって、抜け落ちるのはクオリティになるんじゃないかと。以前に、尊敬するクリエイティブディレクターが『面白ければ、それが最適化でしょ』という話をされていて、とても背中を押されたんです。本当に大事なのは、記憶されたかどうか。忘れられないもの、つい思い出しちゃうものをつくることが一番効率がいい、と。だから、その言葉を肝に銘じて、これからもイチ企画屋としていいものを作り続けたいですね」。

クリエイティブディレクターとしても仕事をすることが増えている室屋さんに、これからの仕事への向き合い方について聞いてみた。「クリエイティブディレクターとしても、プランナーとしても、誰もが持っている“感じる力” を信じて、人間のよいところを刺激したいと考えています。機嫌のいい時間を、増やすような仕事を。10代のころの自分に落胆されないものを」。

 
 

※本インタビューは「広告界就職ガイド2022」に掲載しているものです。
※情報は取材時のものです。
※広告界を目指す学生の方は「広告界就職ガイド」を一度、手に取ってみてください。



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